■ 美術


才能とは、得ようとして得られる物ではない。

「あいかわらず上手いな」
そんな声に顔を上げてみれば、そこにいたのは友人だった。右手には手にはパレット、左手には筆。筆を持った彼の手は小学生かと思うほど汚れていた。
「そうかな」
俺は曖昧に微笑んでそう返す。
どうしても俺はその賛辞を素直に喜べない。
上手い、綺麗、美しい。
喜ぶべき賛辞が今の俺には痛みでしかなかった。
「相沢の方が俺は好きだよ」
そう褒めると彼は
「そうか?」
どうにも納得できない顔をして彼は絵に向き直った。
相沢の絵は独特だ。まるで繊細とはかけ離れた色の洪水のようなのに、見る者はどうしてかその絵に意味を見つけようとしてしまう。そしてその絵から目が離せなくなってしまうのだ。
対して俺の絵は、いわゆる器用さから生まれた綺麗なだけの絵だ。それを俺は彼の絵を見た瞬間悟ってしまった。まあ、それでも美術部に入り、相沢と友達になったわけだから、俺は本当に美術が好きなのだろう。